AIコールセンターガイド。活用事例や導入手順を解説

September 11, 2023

コールセンタージャパンの調査によれば、コールセンターでAIをすでに活用している、もしくは活用を検討していると答えた企業の割合は45%と多くの企業がAI活用に関心を寄せています。AIを活用したいけど、具体的に日常の業務でどう活用できるのか、活用で見込めるメリットは何なのか、と思う人も多いでしょう。そんな疑問にお答えするため、AIコールセンターの特長や機能、コールセンターのAI化によるメリットや活用事例をご紹介します。

AIコールセンターとは?

AIコールセンターとは、人工知能(AI)を活用しカスタマーサポートを提供するコールセンターのことで、応対分析や問い合わせ処理の自動化、オペレーター支援など幅広い分野に渡るAI機能を提供します。AIコールセンターは、高度な専門知識や多額の設備投資を必要としないため、すでにコールセンター業界で広く導入されており、カスタマーサービスに変革をもたらしています。バーチャルオペレーターや、プログラミングなしでチャットボット設計ができるAIソフトにより、AIコールセンターの導入は比較的容易に行うことができ、より短い期間で生産性や顧客満足度の向上が見込めます。

AIコールセンターの特長

AIを活用したコールセンターは、通常のコールセンターとどう違うのか。その違いについて、AIコールセンターの特長を紹介します。

1.データ集約による精度の高い運用
さまざまなシステムのデータを1つのプラットフォームに集約できることが、AIコールセンターの大きな強みです。多くのコールセンターにとってデータのサイロ化は、センター運用の生産性を改善する上で大きな障害となっています。複数のシステム間でデータが断片化されると、非効率的な運用、ミス、効率化の機会損失につながる可能性があります。データを集約することで、プロセスを合理化できるだけでなく、データから生成できる洞察の精度が向上し、的確な意思決定が可能になります。

2.コールセンターの運用状況を高度に分析
AIの最も強力かつ実用的な用途の1つは、データを分析し意味を抽出する能力です。AIを活用した音声分析により、すべてのチャネルの会話を100%モニタリングし、KPIに基づいて自動的にスコア付けをし、これらの洞察を活用してオペレーターのパフォーマンスを大幅に向上させることができます。また、これまで手作業や属人的な作業に頼りがちな、オペレーターのパフォーマンス評価をより公平なものにし、各オペレーターに合わせたトレーニングプランの作成も可能です。さらにオムニチャネル分析ツールを使用すると、すべてのデータを1つのダッシュボードで表示、評価できるため、あらゆる角度からパフォーマンスを把握できます。

3.IVR機能の強化
チャットやメールよりも、電話や対面でのやり取りを好む、と回答した人は42%という調査結果も出ており、効率性を求めつつも柔軟性がある人間による対応が、カスタマーサポートでは求められていることがわかります。AIコールセンターは、このバランスを実現するのに最適です。高度なIVRシステムを通じて、最新技術の効率性と人間味のある応対を組み合わせることができます。AIコールセンターのIVRは、単なる自動音声ではなく、人間の思考を忠実に理解・再現する分析機能を備えています。この技術により、問い合わせ内容や応対の緊急性を理解し、適切なチャネルやオペレーターに誘導することができます。

4.応対業務を自動化
カスタマーサービス業界の大きな課題の1つは、仕事が単調になりやすく、オペレーターのモチベーションを保つことが難しいことです。繰り返しの単調作業は、高い離職率の要因にもなります。単調なタスクをAIで自動化することで、オペレーターの作業効率を向上させ、コールセンター全体の生産性を高めます。自動化により、平均処理時間が短縮され、オペレーターの仕事に対する満足度が向上します。さらにAIツールは、オペレーターの全ての応対を評価し、各々のオペレーターの弱点や改善点に応じて、最適なトレーニングを自動で推奨することもできます。

5.応対時の次善策をリアルタイムで提案
AIコールセンターは、オペレーターの強力なサポーターとしても機能します。コールセンターのAIテクノロジーは、応対履歴、顧客からのフィードバック、行動パターンなど、膨大なデータを分析し、オペレーターに対して次善策や問題への対処法などの提案や洞察をリアルタイムで提供することができます。この機能により、オペレーターは迅速かつ効率的なサービスだけでなく、状況に応じた最適な応対を提供することができます。たとえば、顧客がクレームの電話をかけてきた時、AIシステムは応対履歴、顧客の感情、解決策などをオペレーターの作業画面に表示します。これにより、効率的かつ顧客の心情に寄り添った問題解決を可能にします。

6.セルフサービスの強化
AIコールセンターは、業務の生産性や効率性を上げるだけでなく、セルフサービス(FAQやチャットボットなど)の品質改善でも役立ちます。バーチャルオペレーターやチャットボットなど高度なAIテクノロジーを使用して、顧客の自己解決を促します。AIを活用したセルフサービスの大きなメリットは、時間の経過とともに学習して適応する能力です。すべての顧客とのやり取りがシステムに取り込まれるため、AIは継続的に回答を改善し、問い合わせ内容をよりよく理解して解決できるようになります。

AIコールセンターは、さまざまな要素が相乗的に機能することで既存の業務をスムーズにし、効率と顧客満足度の両方を向上させるシステムと言えます。このシステムは、集約したデータを活用してパーソナライズされた体験を提供し、オペレーターの仕事を軽減し、顧客体験の向上をもたらします。

AIコールセンターの主な機能

AIコールセンターソフトウェアには、豊富な機能が搭載されていますが、以下では、AIコールセンターを選ぶ上で、欠かせない主な機能を紹介します。

AIチャットボット:チャットボットは簡単な質問やよくある質問を素早く処理できるため、オペレーターはより複雑なタスクに専念できます

AI自動音声応答:顧客の音声を認識し、問い合わせ内容を理解し、自然な音声で自動回答することで、オペレーターが対応する入電を減らすことができます。

AIルーティング:問い合わせ内容に応じて適切な部署やオペレーターに転送するだけでなく、顧客の嗜好やタイプに応じて、最適なオペレーターに入電を転送します。

自動要約機能:顧客との通話終了後に、自動で通話内容を生成し、オペレーターの業務負担や人的ミスを減らします。

自動データ分析:コールセンターの運用状況やKPI達成度をリアルタイムで表示し、必要なアクションを自動生成して提示します。

需要予測:過去のお問い合わせ傾向から、将来の問い合わせ量を予測し、業務量に合わせたシフトや人員調整が可能になります。

さまざまな機能を備えたAIコールセンターソフトウェアは、顧客とオペレーターの両方にシームレスで効率的なエクスペリエンスを提供します。また、早期にAIコールセンターを導入することで、競合よりも優れたカスタマーサポートを提供することができ、市場における優位性にもつながります。

AIコールセンターを導入するメリット

上記のようなAI機能を活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

1.生産性の向上
通話やデータの処理、問い合わせ対応、基本的な顧客サービス業務などを自動化することで生産性を向上させます。業務の自動化により、オペレーターは人間のサポートが必要な複雑な問い合わせに集中できるようになり、労働生産性を改善することができます。

2.オペレーターの負担軽減
AIチャットボットやバーチャルオペレーターは、人間の介入なしに大量の問い合わせを処理できるため、オペレーターの負荷が大幅に軽減されます。コールセンターはピーク時でも、サービス品質を犠牲にすることなく、顧客に対応することが可能です。

3.応対のパーソナライズ
AIシステムは、既存のデータベースやCRMと統合することで、サポートのワークフローの合理化が可能です。AIが顧客のサービス利用状況や過去の応対といったデータをオペレーターのデスクトップにリアルタイムで表示することで、よりパーソナライズされた応対を提供できます。顧客満足度だけでなく、解決率の向上にも貢献します。

4.人件費の削減
コールセンターでAIを活用することで、これまで人間のオペレーターが対応していた問い合わせを自動化したり、オペレーター業務を効率化することで、結果的に人件費の削減にもつながります。ガートナーの調査では、会話型AIチャットボットの導入により、2026年までにコールセンターの人件費が800億ドル削減される見込みだという結果も出ています。

5.優れた拡張性
AIソリューションは拡張性に優れているため、企業は人員を比例的に増やすことなく、変化する需要に迅速に対応できます。この拡張性は、今後の成長が見込まれるスタートアップ企業や、季節によって問い合わせ需要が大きく変動する企業にとって重要です。

AIをコールセンター業務で活用するメリットは、生産性の向上、通話量の削減など多岐にわたります。ただし、AIの導入を成功させるには、その可能性を最大限に引き出すための慎重な計画、実装、管理が必要です。

コールセンターにおけるAI活用事例

以下では、実際のセンター業務において、どのようにAIを活用できるのかという事例をご紹介します。

1.オペレーター支援により業務を効率化
通話中にリアルタイムでオペレーター画面に回答候補を表示することで、経験の少ないオペレーターでも質の高い対応が可能です。またバーチャルアシスタントを活用することで、複雑な応対業務を簡素化し、人的ミスの軽減、効率的なオペレーションを実現することができます。

2.通話記録を自動要約し、後処理時間を短縮
通話後にAIが顧客とオペレーターのやり取りをテキスト化し、自動で要約します。さらに要約結果をCRMシステムに連携することで、後処理時間を最小化することが可能です。

3.多言語カスタマーサービスを容易に
日本語以外での通話やチャットテキストをリアルタイムで、日本語に翻訳するAI機能もあります。オペレーターは日本語のみの対応で、AIが自動で顧客の言語に変換します。多言語サポートのために、新たな人材を雇う必要もなく、多言語でのスムーズなサービス提供が可能になります。

4.AI自動電話応答により入電数を削減
従来は問い合わせ内容に応じて、顧客がキーパッドの数字を入力し、オペレーターにつなぐという流れが一般的でしたが、顧客の問い合わせ内容をAIが音声で認識し、AIが音声で自動回答をすることで、人間のオペレーターが対応する件数を減らすことができます。ガートナーのアナリストによれば、顧客の名前や電話番号、住所など本人確認プロセスなど一部の応対を自動化するだけでも、応答時間を3分の1に短縮できると述べています。

5.高度な会話型AIチャットボットを実現
従来のAIチャットボットは、簡単な質問には回答できるものの、複雑な質問になるとオペレーターに転送しなければならないという課題がありました。しかし、高度な会話型AIチャットボットでは、コールセンターのナレッジやChatGPTを組み合わせることで、人間のような自然な会話や手続処理を実現することができます。

6.コールセンターの運用状況を可視化
応対データや履歴は蓄積しているものの、分析活用が進んでいないという課題を抱えるセンターは少なくありません。AIであれば、音声だけでなく複数のデジタルチャネルも含め、包括的にデータを収集・分析することで、KPIのリアルタイムデータを提供したり、自動化が可能な業務の提案などを行うことが可能です。

コールセンターをAI化するためのプロセス

ここでは、コールセンターでAI化を進めるためのプロセスをご紹介します。

1.AIの機能を理解する
まずカスタマーサービスにおいて、AIで何ができるかを理解することから始めます。機械学習、自然言語処理、自動応答システムなど、AIのさまざまな側面を調査してみると良いでしょう。AIの機能と限界を理解することで、現実的な期待を設定し、コールセンターにおける応用分野を特定できるようになります。

2.現在の設定を評価する
コールセンターの現状を分析して、AIが大きな効果を発揮できる領域を特定します。反復的、時間のかかる、または人為的エラーが発生しやすい業務プロセスを探します。こうした領域は通常、問い合わせ処理の自動化やオペレーターへのリアルタイム支援といったAI化により、最も直接的な効果が見込めます。

3.AIソリューションの調査
次にAIソリューションを調査します。チャットボット、音声分析、需要予測モデルなどのAIを取り入れたテクノロジーを提供しているベンダーを探します。サービス内容、口コミ、サポートなどを比較し、信頼できるパートナー企業を選択します。

4.AI導入の計画
コールセンターにAIを実装するための詳細な計画を作成します。タイムライン、予算、明確な目標リストを含める必要があります。本格的な展開の前に、AI機能をテストできるパイロットプログラムから始めることをおすすめします。こうしたアプローチにより、リスクを軽減し、AIが既存のシステムにどのような影響を与えるかについての洞察を提供します。

5.AIツールのカスタマイズ
選定したベンダーと連携して、特定のニーズに合わせてAIツールをカスタマイズします。AIソリューションが既存のITインフラとシームレスに統合され、現在のプロセスを妨げないことを確認します。

6.AIツールのトレーニング
コールセンターの従業員やオペレーターが、AIをスムーズに使いこなせるようにするためには、トレーニングが不可欠です。新しいツールの使用方法だけでなく、AIが各自の役割にどのように役立つかを理解してもらうための包括的なトレーニングを提供します。

7.導入による効果を計測
AIの導入後、パフォーマンスとコールセンター運用への影響を継続的に監視します。KPIや顧客満足度への影響を評価します。さらに、顧客とオペレーターからフィードバックを集めることで、新機能の使いやすさを確かめることができます。

こうしたプロセスは一見すると複雑そうに見えますが、コールセンターAI化の成功や、実質的な効果を測定するためには、不可欠です。コールセンターのAI化の目標は、スタッフの負担を軽減するだけでなく、むしろ労働力を強化し、すべての応対において高品質なサービスを提供することにあります。

AIコールセンターを導入する際の注意点

カスタマーサービスにおける活用事例やメリットを見ると、AIは万能ツールのように思えるかもしれません。しかし、コールセンターにAIを実装するには課題もあります。既存のシステムとシームレスに統合できる適切なAIソリューションの選択、プライバシーとセキュリティの確保など、導入前に考慮しておくことは多くあります。さらに、AI機能を最適化し、人間とAIの効果的な関係を維持するには、継続的なトレーニングと調整が必要です。

AIでオペレーターの仕事はなるくなるのか

AIがコールセンターのオペレーターに取って代わる可能性については、かなり議論されています。AIテクノロジーは、理論的には、従来は人間のオペレーターが行っていた特定のタスクを引き継ぐ能力を備えていますが、カスタマーサービス業界の現在の傾向は、AIを代替ツールとしてではなく、サポートツールとして使用することに重点を置いています。

AIと人間のオペレーターの両方の長所を組み合わせたAIコールセンターは、効率性と共感性を備えたバランスの取れた顧客サービスを提供できます。このアプローチは、顧客が重視する人間味のあるサービスを維持しながら、AIのメリットを最大化するもので、カスタマーサービスの未来を大きく変える可能性があります。

NICEのコールセンターAIソリューション

コールセンター運用に必要な機能を包括的に備えたクラウドCXプラットフォーム「CXone」は、顧客、オペレーター、管理者を支援するさまざまなAIソリューションを提供しています。

EnlightenCopilot–オペレーター支援AIソリューション
最適な回答候補をオペレーター画面に表示。通話内容の自動要約など、生成AIとナレッジシステムを活用し、応対プロセスの生産性向上を支援します。

EnlightenAutopilot–顧客向け会話型AIチャットボット
コールセンターで用意されたナレッジとChatGPTを組み合わせることによって、自然な会話、手続処理を実現します。

EnlightenActions–管理者向け生成AI活用
コールセンターに点在しているデータを集約して分析。セマンティック検索を実現することで、「今日のトップ10KPIを教えて」といった管理者が知りたい質問に対し、データに基づくインサイトを提供します。

NICEのサービスは、お客様の課題やニーズに応じて、柔軟に対応することができます。コールセンターでのAI活用に興味がある方は、お気軽にご相談ください